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【取材記事】「牧野記念庭園書斎再現プロジェクト」の展示はどうなる!? ~デザイナーにお聞きしました!~

2022年8月25日|カテゴリー:牧野記念庭園書斎再現プロジェクト

「日本の植物分類学の父」といわれる牧野富太郎博士の書斎を再現する「練馬区立牧野記念庭園書斎再現プロジェクト」。趣向を凝らした展示などを準備しており、来春の公開を予定しています。どんな展示なのでしょうか。書斎再現のデザインを担当する里見デザイン室の里見和彦さんと里見由佐さん、学芸員の牧野一浡(かずおき)さんにお聞きしました。一浡さんは牧野博士のひ孫にあたります。

書斎だけでなく、牧野博士の情熱までも再現したい

左から、学芸員の牧野一浡さん、里見和彦さん、里見由佐さん

牧野記念庭園は、練馬区名誉区民の牧野富太郎博士が昭和32(1957)年に満94歳で亡くなるまで約30年間を過ごし「我が植物園」として大切にした庭と自宅があった場所です。現在は、博士に関する展示と庭園を楽しめる記念館になっています。その園内にある鞘堂(さやどう)の書斎を、牧野博士在りし日の書斎に再現しようというのが、このプロジェクトです。練馬みどりの葉っぴい基金で寄付を募っています。

現在の書斎展示の様子

里見和彦さんによると、「この建物は、昭和26年の新宅に接続して書斎として使われるようになったそうです。そこで書斎再現の時代設定を、昭和27年から28年にしました。博士のいくつになっても一貫して変わらない植物研究にかけた情熱を、この空間で表したいと思いました。」とのこと。では、研究にかけた情熱をどう表すのでしょうか。

書斎にて(昭和25年4月2日撮影)個人蔵

「圧倒的な本の山の中で研究している姿を見てもらえるよう工夫を凝らします。机の上の文房具や本の置き方、牧野博士ならではの細かい工夫がいろいろあるので、そのディテールのおもしろさにも気づいてもらえるようにしたいです。」

書斎のいちばん手前には、牧野博士ゆかりの学者の実物の本や植物研究書を置き、その奥には、「牧野文庫」の博士の蔵書を撮影して作るレプリカを置きます。そのほかにも、里見和彦さんが手描きした牧野博士の蔵書の装丁本も置くそうですよ!

里見さん手描きの牧野博士の蔵書。牧野さんは「実物以上」と太鼓判!

牧野文庫は、牧野博士のふるさと高知の県立牧野植物園にあり、遺族から寄贈された約4万5000点の博士愛蔵の書籍などが収蔵されています。里見和彦さんは今、どの本をどの棚に並べるか、資料と照らし合わせながら再現する本の選定作業を進めているとのこと。

書斎にあった博士の愛用品についても、使っていたハサミや電気スタンドなどの再現を試みようとしています。例えば、ハサミは種子島のハサミ(種子鋏)であることを牧野さんがつきとめ、種子島の職人に製作を依頼しているそうです。

書斎から“妖怪”が出てきた~!?

当時の書斎を再現しますが、単なる再現にとどまらないようにしたいと、里見和彦さんは言います。

「例えば、庭の桜が咲きました、となったら、牧野博士の桜の植物画のレプリカを机の上に置いたり、その植物の解説を置くなど庭園の植物と書斎とを連動させて、常に四季のうつろいを感じてもらうようにしたい。牧野博士は、晩年でもときどき庭に出て植物を観察していたそうですから、現実には博士はもういないけれど、ついさっきまでここにいて、今は庭にいるんですよ、というような物語のある展示を考えています。」

第4回日展特選「書斉の牧野博士」画:榑松正利氏のハガキのコピー

牧野一浡さんは、「僕も覚えています。牧野博士は本当にときどき書斎から出てくる。」と、一緒に住んでいた当時のことを話してくれました。「ゆっくり歩くので、『妖怪が出たー!』と、近所の同級生たちが声をあげていましたね。」

当時の子どもたちの目から見た、博士の貴重なエピソードが飛び出しました。

牧野博士にたずさわって30年、デザイナーが牧野博士の魅力を語る

里見和彦さんは、牧野博士と同郷の高知県出身。高知県立牧野植物園の1999年のリニューアル時、牧野富太郎記念館の常設展示のデザインを手がけ、そこで博士の書斎再現に取り組んでいます。

東京で日本各地の博物館の展示デザインの仕事をしていた里見和彦さんが、牧野博士にかかわったのは36歳のとき。牧野富太郎記念館の常設展示のデザインに、37歳から5年間かけて取り組み、その後は18年間、牧野植物園で学芸職員・展示デザイナーとして勤務し、博士の魅力を伝える数々の企画展を担当しました。今は里見デザイン室という名で妻の由佐さんと高知で仕事をしています。

「あの頃、牧野博士のご家族やご親戚から博士のことを伺ったり、アメリカの植物園や植物研究者にエピソードを聞きにいったりなど、博士に興味をもって調べるようになって、かれこれ30年が経ちます。“人間・牧野”の魅力にとりつかれた僕が、また牧野博士の書斎を再現する仕事ができることは、とても光栄です。」

これから再現する書斎の前に立つ、里見和彦さん(左)と里見由佐さん(右)

里見さんは数あるエピソードの中から、印象深いことを話してくれました。

「牧野博士の孫の澄子さんから、ここで博士が研究している時の話を聞きました。本を大切にしたというエピソードです。利用すればするほど本の綴じが壊れてしまう。牧野博士は、千枚通しで穴を開けて糸で綴じ直したり、表紙がちょっとでも折れていたら、小さいコテを火鉢であたため、アイロンのようにして直すこともあったそうです。手先がとても器用だったということも聞きました。」

「牧野博士が本をどうして大切にするかというと、自分の研究を支えてくれるものだからです。博士は『書籍の博覧を要す』という戒めを若い頃に書いていて、ジャンルを問わず読みなさいと言っている。一方で、『書を家とせずして、友とすべし』とも言い、誤りがあれば堂々と発表しなさいと言っている。牧野博士の本や研究に対する姿勢、そういうものが伝わる展示にしたいです。」

「里見和彦さんの展示デザインにかける情熱はものすごいものがある。完成が楽しみです。」と牧野さん。

練馬と高知を結ぶ展示に

最後に里見和彦さんに、区民へのメッセージをお聞きしました。
「牧野富太郎という、90歳を過ぎても研究しつづける人間のひたむきさとエネルギー、そして人間味あふれる人物像を、ここにきて感じてもらえたら嬉しいです。牧野博士は晩年、『高知に帰りたい、帰りたい』と言い、でも、叶わなかった。練馬と高知を結ぶ展示となればいいですね。」

牧野博士が80代の頃の書斎は牧野植物園に再現されており、そして90代の最晩年の書斎が、ここ練馬の牧野記念庭園に再現され来春公開の予定です。高知県の書斎ではリアルな牧野博士が机に向かって絵を描いているそうです。練馬はもちろん、機会があれば高知も訪れてみてはいかがでしょうか。

現在開催中の【牧野富太郎生誕160年記念特別展】牧野富太郎と万葉集の植物

練馬区立牧野記念庭園

所在地:東京都練馬区東大泉6-34-4
開園時間:9時~17時
企画展示:9時30分~16時30分
休園日:火曜(ただし祝日の場合は開園、次の平日が休園)
練馬区立牧野記念庭園HP

※「練馬区立牧野記念庭園」は、無料でご来園いただけます。
※ご来園の際は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための対策にご協力をお願いいたします。

里見デザイン室:https://yusatomi0227.wixsite.com/s-design
高知県立牧野植物園(高知市五台山):https://www.makino.or.jp/

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